下落続く中国株価、人民元
トランプ米大統領は今月半ばに500億ドル相当の中国からの輸入品に25%の追加関税を課すと表明しました。その後、中国側が報復措置を取ると発表し、米中貿易戦争の激化が懸念されています。
これまでのところ、その影響は、両国の経済統計にはまだ出ていませんが、足元の相場をみると、その影響が顕著に表れています。序盤戦に限って言えば、中国に不利な展開になっていると言えそうです。
まず株価の動きですが、日本、中国、米国の3カ国の株価の動き(2017年1月を100.0として指数化、月末ベース)を見ると、6月28日現在で、日本が117.0、中国が88.7、米国が120.0となっており、17年1月比では、それぞれプラス17.0%、マイナス11.3%、プラス20.0%となっています(C1参照)。
また28日の株価を5月末と比較した場合でも、それぞれプラス0.3%、マイナス9.5%、マイナス1.2%となっています。日本株価の意外な堅調さとは裏腹に、中国株価の下落率が際立っています。
次に通貨の動きですが、円と人民元の対米ドル相場を、やはり2017年1月の相場(1米ドル=113.5円、6.884人民元)をそれぞれ100.0として指数化してみると、28日の相場は円が97.1、人民元が96.1となっています(C2参照)。
あまり大きな差が無いように見えますが、ドルが弱かった今年3月末との比較では、円が3.7%の下落に対して、人民元はそれを上回る5.4%の下落となっています。
こうした相場の動きから見えてくるのは、中国からの資金流出です。この流出については、貿易摩擦とともに、米国の利上げ加速が大きな役割を果たしていることは否定できません。韓国ウォンも先月末比で2.8%ほど下落していますし、新興国の通貨が全体的に対米ドルで下げています。
冒頭で、貿易戦争序盤戦は中国に不利と指摘しましたが、米中両国の経済のファンダメンタルズを見ると、ある程度予想できたことではあります。
輸出額の対名目GDPの比率をみると、中国が約19%と、米国の12%を上回っており、中国経済は相対的に輸出依存度が高いことが分かります。
また中国の対米輸出額は2017年に4331億ドルと、輸入額の1551億ドルの約3倍となっています。以上の数字から言えるのは、貿易戦争が激化して、両国の輸出入額が大きく減少した場合、中国経済がより大きな打撃を受けるということ。
尚、通貨安については、必ずしも中国経済に対して悪材料ではないとの見方もあるでしょう。通貨安になれば、輸出額は膨らみ、GDP押上げ要因となります。一方、その対価として、インフレの激化は避けられません。
原油価格も一時落ち着いてきましたが、再び1バレルあたり70ドル以上に上昇してきました。中国の消費者物価は現在、前年比1-2%程度で安定していますが、通貨安と原油価格上昇が続けば、インフレ率の上昇は不可避でしょう。
早期のデフレ脱却を目指す日本経済であれば、インフレ率の上昇は大歓迎でしょう。しかし中国では、インフレ率の大幅上昇が続けば、国民の不満が高まり、社会全体が不安定化する可能性があります。中国政府にとっては、失業率の上昇とともに、インフレ率の大幅上昇にも、目配りする必要があります。
ただ、世界GDPの1位と2位の国の間の摩擦ですので、他の国が火の粉にさらされるのは避けられそうもありません。人民元や上海総合指数の著しい下落が今後も続けば、日本や米国などの株価にも売り圧力が連鎖して、世界経済全体が「勝者無き泥沼化」に転じる可能性は十分考えられます。今後とも、相場、経済統計の動向を注視したいとおもいます。
今回のコメントについては、相場はブルームバーグ、経済統計はJETROと内閣府の統計を参考にしました。
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