日米金利差、昨年11月以来の小幅に

週末(8日)の為替は、急速に円高/ドル安に動き、107円台を付けました。週末ベースでみると昨年11月11日の106.65円以来の円高水準となります。ハリケーン「イルマ」の襲来による米国景気の下押し懸念、それによる利上げ時期の後ずれ懸念、北朝鮮の建国記念日を目前にした「有事の円買い」、トランプ政権の政策への不信などが影響したとのことです。

為替に影響を与える日米の長期金利差を見ると、先週末の2.19ポイントから大きく縮小して2.06ポイントとなりました。この2.06ポイントという金利差は昨年11月4日につけた1.85ポイント以来の小さなものです。日米金利差は為替に密接な影響がありますので、この金利差縮小が円高につながったとも言えます(C1参照)。


ではなぜ金利差が拡大したのか。米国の長期金利はハリケーンの懸念などから2.05%と、先週末の2.17%から大きく低下しました。一方、日本の長期金利はマイナス0.02%からマイナス0.01%に、小幅ではありますが上昇しています(C2参照)。

円高放置ならデフレ再燃も

足元の107円台という為替水準は、日本の大企業製造業の今年の想定為替レート(1ドル=108.31円、6月日銀短観より)を超える円高となっています。つまり108.31円を下回るようなドル安(円高)を放置すれば、まず輸出企業の収益が当初予想よりも落ち込み、株価も低下します。また景気の下押し、さらにデフレの再燃を招く恐れもあります。

黒田日銀総裁はこれまでもデフレを克服すべく、あらゆる手段を講じてきました。そそのかいもあって最近は企業のデフレ心理が後退、インフレ期待が浮上してきました。日銀短観によれば、企業の1年後の物価見通しは2015年末まではプラス1%を超えていました。しかし16年に入り徐々に低下、昨年9月にはプラス0.6%まで落ち込みました。その後、日銀の努力もあり今年6月時点ではプラス0.8%にまで上昇、やっと底を打った形となりました(C3参照)。

 

円高を放置すれば、企業や消費者のインフレ期待は後退して「消費や投資などせずに、キャッシュを貯め込む方がトク」というデフレシフトに回帰する可能性があります。これまで営々と日銀が築き上げてきた脱デフレの努力が水泡に帰すことも有り得るわけです。これは何としても避けたいのではないでしょうか。

デフレへの回帰を避けるためには、日銀には市場オペを積極化して、長期金利をさらに低下させることが期待されます。つまり長期金利のマイナス幅を、市場オペなどでさらに拡大させるわけです。マイナス幅拡大により日米金利差が拡大、結果的に円高圧力を緩和することができます。

「ゼロ%程度」とは?

日銀は長期金利を「ゼロ%程度」に誘導することを目標にしていますが、マイナス幅を拡大させることに抵抗もあるようです。実際にマイナス幅を拡大させれば、金融機関の収益にはマイナスとなります。しかし日本経済と銀行の収益を比べれば、どちらがより重いかは明らかでしょう。

また「ゼロ%程度」がどの範囲をさすのか明確でないとの問題もあるようです。しかし日銀が長期金利の誘導目標を設定した昨年9月21日以後も、マイナス金利は頻繁に見られました。誘導目標を発表した日から昨年11月初旬まではマイナス金利ですし、その間もマイナス0.07%まで低下したこともあります。とすれば市場でも言われているように「ゼロ%程度」はマイナス0.1%あたりまでは容認していると見ることもできます。

足元の金利であるマイナス0.01%からマイナス0.1%までは、まだのりしろがあります。日銀が足元の円高にどう対応すべきかは明白のように思えますが、週明けの日銀の行動に注目したいと思います。