消費税引上げ前の所謂「駆け込み需要」がこれまでのところ低調―との記事を最近読みました。10月の消費税引上げまで4カ月ほど残っているので、駆け込み需要が本格化するのはこれからとは思いますが、過去の引上げ時ほどには、自動車や住宅の駆け込み需要も、またその反動も大きくないのではないか-と感じます。

その大きな理由は、消費者の間にも、これまでの引上げ時の経験による学習効果が働いているためだと見ています。

現時点での駆け込みが低調な理由について一般的には、以下のような要因が考えられます。

-衆参ダブル選挙が行われ、消費税率引き上げが無くなる可能性が残っている
-今回の引上げ幅が2%ポイントで、2014年時の引上げよりも小幅である
-鉱工業生産や景気動向指数に見られるように景気は既にピークを過ぎており、年金2000万円騒動も加わって、現時点ではローンを抱えることへの不安感がある。

私自身、自動車などの高価な耐久財を買う予定は現在ありませんが、仮にそれがあった場合でも、税率引き上げ前に「なんとしても駆け込もう」という意識はありません。

というのは私自身、1997年の消費税率引き上げ(3%から5%)時に自動車を購入した経験があるためです。

1997年は動乱の年でした、消費税率が4月に引き上げられ、その後アジア通貨危機がおこり、さらに秋には山一證券など金融機関の破綻が頻発しました。

当時、私は車を消費税引上げ前に買い替えたいとは思っていたのですが、それを果たすには、上記のような事情で経済記者としてあまりに多忙でした。

しかたなく、消費税引上げ後の購入となりました。当然、消費税率分だけ車の価格は引き上げられているはずですが、実際には、消費税引上げ前の価格よりもかなり安く購入することができました。なぜなのか。

自動車メーカーにしてみれば、消費税引上げ前の駆け込みでかなり儲けたわけです。しかし、引上げ後の大幅な反動減はできれば回避したいという気持ちがあります。そのために税率引き上げ後は、普段なら考えられないような大幅な値引きが行われたのです。

20年以上前の話なので、今でも同じことが言えるのかは定かではありません。しかし、97年の税率引き上げ時に車を購入した当事者として学習した経験からすれば、自動車など高価な耐久財を購入するに際して、消費税前に駆け込む必要はない-と考えています。

こうした過去の消費税導入・引き上げ時の経験を経て、消費者の多くが私と同様に学習したはずです。こうした経験が、駆け込みを急ぐ必要はない-という発想につながっているのではないでしょうか。

経済や市場の予想は、どうしても理論偏重、机上の空論になりがちです。「実際にその当事者であれば、どう動くのか」というイマジネーションが働きにくくなるようです。

私も記者時代に「自分の言う通りに投資していたら、今はxx千万円儲かっていたはずだ」と豪語する金融関係者や記者人によく会いました。

しかし、こうした机上の計算と、実際に自分のお金を投資するのとは全く違うのではないでしょうか。私は大きな額を投資した経験はありませんが、実際に自分で投資すれば、欲に目がくらみがちになり、客観的かつ冷静な判断が下せるものなのか多いに疑問です。

またかつて日銀の幹部だった方は団塊世代のリタイアが始まるころに、団塊の引退は消費や投資の拡大につながるーと予想していました。

団塊世代は高額の退職金を手にして、今後自由になる時間も増えるので、旅行などの消費や株式などへの投資に積極的になるーというのがその理由でした。

しかし実際には、そうしたことは起こりませんでした。これは実際に引退した当事者になってみればすぐに分かることです。実際に引退してみると、その後は、これまで貰えていた毎月の給料は一切無くなってしまします。原則65歳になれば年金が貰えるとはいえ、あまり多くの額は期待できません。

こうした環境に実際に直面すれば、高額の退職金を一時的にもらったとはいえ、その虎の子を大胆に消費するという行動はでにくいはずです。

日銀のエリート幹部にとってすら「当事者の立場に立って」の予想はできなかったということです。経済予想の難しさを改めて認識する次第です。