3月発表の政府の月例経済報告では、景気全般の判断をほぼ3年ぶりに引き下げました。個別項目では、生産の判断を引き下げました。

また先週末に発表された2月の鉱工業生産(SA、季節調整済)は前月比プラス1.4%と、4カ月ぶりに増加に転じましたが、その上昇幅は小幅であり、生産全体の下落基調を覆すには力不足の内容となりました。

当ブログでは以前に「生産は既にピークアウトしたのではないか」「景気全体も既に後退期に入っているのではないか」「戦後最長の景気拡大の更新は幻に終わったのではないか」との疑問を呈してきました。

2月の鉱工業生産は、こうした「景気は既に後退期に入った」などの懸念を一段と高めたと感じます(この問題については、またの機会に述べたいと思います)。

だとすれば、米国の連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)と同様に、日銀も現在の政策をより緩和的なものにシフトする可能性がでてきます。また今年10月に予定されている消費税率引き上げには逆風となります。

こうした日本経済の減速の要因について月例経済報告では、輸出、特に中国向け輸出への警戒感を強めています。

日銀が発表した実質輸出指数(2015年=100.0、今年1月まで)を見ると、中国向け輸出の下落が目立ちます(下のCC1参照)。

ここ数カ月を見ると(点線枠内)、対米国、対EU向け輸出が(1月は下落したものの)上昇基調を維持しているのに対して、対中国向け輸出は、昨年8月の129.4をピークとして、その後は低下基調に入り、1月は112.4まで低下しましした。昨年8月から13%も低下したことになります。

こうした対中国向け輸出の急減をもたらしたものは、中国経済の減速であるわけですが、中国の生産、消費(小売)、投資の毎月の動きを見てみると、いずれも減速基調が継続しています(C1参照)。

ただ、ここ数カ月(C1内の黄色枠内)を見ると、投資の伸び率だけがやや持ち直しています。これは景気対策としての官製のインフラ投資が影響しているとみられます。

消費については、数年前までは景気の牽引役を、投資から消費にシフトするという政策努力が見られましたが、このグラフを見る限り、その努力は明らかに失敗しています。消費も生産などと同様に持ち直すことなく、減速を続けています。

生産も減速していますが、今年1-2月期の生産は前年比プラス5.3%となり、10-12月期の平均であるプラス5.7%から減速しています。

中国のGDPは生産の影響が非常に大きいので、4月中旬に発表される1-3月期GDPも、10-12月期の同プラス6.4%から減速する可能性が高いと言えます(CC3参照)。

こうしてみると、米中経済戦争などによる中国経済の減速は、未だに歯止めが掛かっていないことが分かります。

著名なエコノミストの間でも「中国は財政状況が健全なので、経済対策はいつでも出せる。だから中国経済への心配はいらない」との声が時に聞かれます。

確かにリーマンショック後には、4兆元もの対策を打ち、中国経済のみならず、世界経済をも下支えしたという功績はありました。

しかし、その対策に対する評価は現在では非常に厳しいものがあります。設備投資偏重になったこともあり、過剰設備、過剰債務などを大きく増大させたためです。

そうした過去の教訓もあり、今回発表された対策は大盤振舞をせず、消費を刺激する減税などを中心にして、規模も2兆円程度に抑えています。

新たな対策は中国の内需を刺激するはずですが、それとともに、輸入も増大させます。米国の制裁で輸出が振るわない中で、輸入が増えれば、当然、貿易収支の黒字は縮小という方向に動きます。

とすれば人民元に対する売り圧力は増大します。米国、欧州の金融引締め圧力が緩んだにもかかわらず、トルコリラへの急激な売り圧力が見られるなど、今後、新興国通貨への逆風は強まる可能性があります。

人民元が売られれば、国内ではインフレ圧力が高まるなど、新たな問題も引き起こされるでしょう。対策後も、中国経済、人民元の動向を注視したいと思います。