(生産統計は景気の動きが「見える」最強の経済指標)
12月鉱工業生産指数が発表されました。以前もご紹介したように生産統計は景気の方向感が最もはっきり「見える」指標です。この動きが下向きか・上向きかで、景気の方向感が分かります。12月生産までを示した下のグラフ(Cx参照)を見ても分かりますが、生産の山と谷が、景気の山谷とほぼ一致しています。

グラフのラインが下向きの時が景気後退期、上向きの時が拡張期にあたります。「景気は現在どういう状況にあるのか?」を手っ取り早く知りたい人には非常に便利な統計で、日銀短観とともに日銀が最も注目する指標でもあります。

グラフ内の矢印が示すように、12月の生産は前月比マイナス0.1%と、2カ月連続の下落となりました(Cxの枠内)。しかし10-12月の生産は、台風など自然災害で生産が下落した7-9月期から前期比で1.9%上昇しました。

生産のピークは過ぎたのか?

生産指数は2カ月連続の下落となる一方、在庫指数は前月比プラス1.0%と、2カ月連続の増加となりました。経産省はまた、今年1月、2月の生産指数がそれぞれ前月比マイナス0.1%、同プラス2.6%になるとの予想も発表しました。

過去の例をみると、経産省の予想は実際の発表数値よりも楽観的であることが分かっています。Research76では、過去の経産省予測と実際の数値のギャップを勘案して、1月生産は前月比マイナス3.1%程度と予想します。

過去6カ月の平均をみると、実際の増減率は経産省の予想を3ポイント程度下回っているためです。同様にして、2月は同プラス1.6%程度と予想します。

12月の生産指数は104.7(2015年=100.0)ですので、1月の生産指数は101.5程度、2月のそれは103.1程度となることが算出できます。

経産省では生産について「緩やかな持ち直し」との判断を3カ月連続で維持しました。

1、2月の予想を加えた生産指数と、12月までの在庫指数が下のチャート(C1)になります。在庫が高水準を維持する一方で、生産はピークを過ぎたかのようにも見えます。

(SAは季節調整値)

R76による1、2月の生産予想の平均を、1-3月期の生産指数と仮定して、四半期ベースでみたグラフが下のC2です。1-3月期は、自然災害の悪影響が大きかった昨年7-9月期以来、2四半期ぶりの前期比マイナスとなりそうです。ここ1年ほどは、四半期ごとに増減を繰り返しているのが見てとれます。

景気拡大期間の戦後最長は本当?

内閣府は先月29日、1月の月例経済報告を発表して、国内景気は「緩やかに回復している」という判断を維持しました。

茂木経済再生担当相は、2012年12月に始まった今回のアベノミクス景気は拡大期間が1月で74カ月となり「戦後最長になったとみられる」との判断を示しました。これまでの最長記録は小泉政権下でのイザナミ景気(2002年2月—08年2月までの73カ月)でした。

しかしR76では、今回のアベノミクス景気の拡大期間は結局はイザナミ景気を超えられないのではないかーとの危惧を強くもっています。

上でも指摘して来たように、景気の山谷は生産の山谷と連動することが多いのですが、生産指数のピークは昨年10月の105.9であり、その後はそれを超えることができないでいます。

またR76の試算では、1-3月期の生産指数は前期比マイナスとなりそうです。それ以後も1)米中貿易戦争の悪影響の顕在化(中国GDPの減速加速など)や2)米連邦準備理事会の利上げ姿勢転換によって生じる円高圧力等、景気の足を引っ張る要因が多そうです。そうした点を考え合わせると、今後生産指数が昨年10月の水準を回復するのはけして容易ではないと感じます。

実際に近い将来、生産指数が昨年10月の水準を回復できなければ、昨年10月あたりが結果として今回の景気のピークになる可能性もあります。その場合は拡大期間は71カ月程度にとどまり、イザナミ景気を超えることは困難となります。

尚「景気拡大は戦後最長となった」と一度は言いながら、後の検証の結果、前言を撤回するということはさほど珍しいことではありません。私の30年の記者生活の中でも、バブル景気の時がそうだったと記憶しています。

1986年12月に始まったバブル景気も、一時は1960年代のいざなぎ景気(拡大期間57ケ月)を抜いて戦後最長だと言われましたが、後に、拡大期間は51カ月に留まっていることが分かりました。