(生産統計は景気の動きが「見える」最強の経済指標)

1月鉱工業生産指数が発表されました。以前もご紹介したように生産統計は景気の方向感が最もはっきり「見える」指標です。この動きが下向きか・上向きかで、景気の方向感が分かります。1月生産までを示した下のグラフ(Cx参照)を見ても分かりますが、生産の山と谷が、景気の山谷とほぼ一致しています。

グラフのラインが下向きの時が景気後退期、上向きの時が拡張期にあたります。「景気は現在どういう状況にあるのか?」を手っ取り早く知りたい人には非常に便利な統計で、日銀短観とともに日銀が最も注目する指標でもあります。グラフ内の矢印が示すように、1月の生産は前月比マイナス6.6%と大きく低下しました(Cxの枠内)。ただ、これですぐに景気後退に入ると即断はできません。詳細は後ほど。

第1四半期の生産、8四半期ぶりに前期比マイナスの可能性高まる

指数は前月比マイナス6.6%と、4カ月ぶりの低下となり、低下幅はResearch76の予想(マイナス6.3%)と同程度となりました。一方、在庫指数は同マイナス0.6%と、3カ月連続の低下となりました。その結果、1月の生産指数と在庫指数の3カ月移動平均は生産ともに、12月の数値を下回ったものの(C1の枠内)生産、在庫ともに上昇基調を維持しています。

経産省は2月、3月の生産指数がそれぞれ前月比プラス9.0%、同マイナス2.7%になるとの予想も発表しました。1-3月期を通してみると、2月に予想される大幅増加によって、1月の大幅下落(同マイナス6.6%)はかなり挽回できます。Research76では、過去の経産省予測と実際の数値のギャップを勘案して、2月は前月比でプラス7.0%、3月は同マイナス3.3%程度と予想します。

実際の数字がその予想通りになれば、1-3期の生産指数は103.0(2010年=100.0)となり、前期比マイナス1.2%(C2参照)と8四半期ぶりの低下となりそうです。経済産業省でも生産の判断を先月の「持ち直している」から「緩やかな持ち直し」に下方修正しましたが、1-3月期のマイナスが避けられないとの見通しにたったものと思われます。

四半期ベースの低下は久しぶりですが、これまで7四半期もの長期間にわたりプラスを維持してきたのですから、この程度の「調整」はごく自然のことであり、悲観するにはあたりません。

こうした生産の動きから、足元の景気拡大(2012年12月に始まった「アベノミクス景気」)は1-3月期はやや一服となりますが、4-6月期の生産が再びプラスに転じれば景気拡大も継続していると判断してよいでしょう。その場合、戦後最長の「いざなみ景気」(73カ月:2002年2月―2008年2月)を超えるか否かが今後の注目点となります。

一方、4-6月期も前期比低下となり、2四半期連続のマイナスとなれば、景気拡大に黄色信号が灯る可能性があります。

出荷在庫率、1月はプラス幅縮小

生産の今後の勢いを占う意味で出荷在庫率を見てみましょう(出荷在庫率については下の説明をご覧下さい)。1月の出荷在庫率を算出するとプラス0.7ポイントとなり、12月のプラス2.1ポイントから低下しました(C3参照)。

出荷在庫率がプラス領域にあるということは(下の説明によれば)生産活動は1月単月では「在庫積み増し局面」にあるにあることが分かります。この局面では想定以上に在庫が減っているので、メーカーは適正な在庫水準を回復しようとして生産を増やします。つまり生産に上昇圧力が生じやすい状況であり、景気拡大には追い風となります。

ただ1月の出荷在庫率はプラス0.7ポイントとプラスを維持したものの、12月のプラス2.1ポイントからは低下していますので、生産押し上げ圧力は12月よりもやや減衰しているとみてよいでしょう。

ここで鉱工業生産の中でウェイトの大きい汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、輸送機械、化学(医薬品を除く)の4項目について見てみると、汎用・生産用・業務用機械だけが1月はプラス14.9ポイントとプラス圏にとどまっています。

一方、電子部品・デバイス、輸送機械、化学の3つではマイナス圏入りとなっています。つまり生産への下押し圧力が出やすい状況です。

他の産業への波及が大きい自動車を含む輸送機械が1月(マイナス6.4ポイント)はマイナス圏にとなっているのが気になります。しかしここ数カ月を見ると、昨年11月(マイナス25.5ポイント)あたりから徐々にマイナス幅が縮小しており、生産への下押し圧力は徐々に減じていることが示唆されています。

電子部品・デバイスについては1月はマイナス6.8とマイナス圏に留まっていますが、米アップルの「iPhone」の新機種の販売不振などが影響している可能性がありそうです。

出荷在庫率は:「<出荷の前年比変化率>マイナス<在庫の前年比変化率>」(出荷、在庫はともに原数値)で計算できます。1月の出荷は前年比プラス2.1%、在庫はプラス1.4%ですから、1月の出荷在庫率は、+2.1マイナス(+1.4)で+0.7ポイントとなります。

在庫状況には4つの局面がありますが、出荷在庫率によって以下の判断が目安になります。
1.「予期せざる在庫積み上がり局面」:出荷在庫率がゼロからマイナス幅最大まで
2.「在庫調整局面」:出荷在庫率がマイナス幅最大からゼロまで
3.「予期せざる在庫減少局面」:出荷在庫率がゼロからプラス幅最大まで
4.「在庫積み増し局面」:出荷在庫率がプラス幅最大からゼロまで
1,2の局面では生産に下落圧力が、3,4の局面では上昇圧力が生じやすくなります。