今年の賃上げ率、2.5%近くの可能性も

春闘の賃上げ論議が盛リ上がってきました。今年の大手企業の賃上げですが、昨年実績のプラス2.34%(日本経団連調べ)を上回る上昇幅が確保できそうです。安倍総理が産業界に対して期待しているプラス3%は難しそうですが、デフレ脱却の追い風としては期待できそうです。

毎年1-2月に労務行政研究所というシンクタンクが多くの労使専門家の予想を聞き取り調査していますが、今年の平均予想はプラス2.13%程度となっています。聞き取り調査と言うと、信用性に疑問を持つ方もおられると思いますが、過去の賃上げ実績と比較してみても高い相関が認められます(C1参照)。

2018年の予想はプラス2.13%で、2017年の予想(プラス2.00%)を上回っています。ということは今年の実際の賃上げ率も、昨年実績のプラス2.34%を上回るのではないかーと期待できるわけです。

しかしながら、政府が産業界に期待するプラス3%という目標の達成は難しそうです。

C1を見ても分かりますが、リーマンショックのあった2008年以後は、実際の賃上げ率は予想を上回っています。実際の賃上げ率と予想のギャップをみると2016年が0.15ポイント、2017年が0.34ポイントなどとなっています(T1参照)。

2010年以後をみると、過去最大のギャップは2015年の0.35ポイントです。ということは、実際の賃上げ率が、同研究所の予想を大きく上回るとしても、せいぜいプラス2.5%程度(2.13+0.35=2.48)の上昇率にとどまることを示唆しています。プラス3%には届きません。

賃金上昇率とコアCPIに強い相関

昨年12月のコアCPI(生鮮食品を除く)は前年比プラス0.9%となり、10月のプラス0.7%、11月のプラス0.8%から順調に改善しています。しかし政府・日銀が目標とするプラス2%にはまだ距離があります。

ここで賃金上昇率とコアCPIの関係を見てみましょう(C2参照、1990年-2017年)。このグラフは実際の賃上げ率とコアCPIの前年比変化率を比べたものです。コアCPIの変化率は消費税の引き上げやリーマンショックなどで段差が見られますが、そのトレンド(オレンジ色の点線)をみると、コアCPIとの強い相関が見られます。実際、両者の相関係数をみると0.78(1.0に近いほど相関が強い)と、かなり高い数字となっています。

このように、春闘の賃上げ率はコアCPIに、さらに脱デフレ対して、大きく影響します。さらに言えば、来年のコアCPIが今年を上回り、着実にプラス2%という日銀の目標に近づいていくためには、今年の春闘賃上げ率は、少なくとも今年の実績(プラス2.34%)を上回る必要があるということです。

上でも検証したように、今年の賃上げは昨年の実績を上回りそうです。実際にそうなれば、コアCPI伸び率も今年を上回り、デフレ脱却の追い風になることが期待できます。

リスク要因は円高とトヨタ

ただ万が一、賃上げ率が昨年を下回るという事態になれば、コアCPIの上昇率も昨年を下回り、ついにはデフレ脱却に黄色信号が灯るという事態に至る可能性もあります。

上でも検証したように、労務行政研究所の予想では、今年の賃金上昇率は昨年を上回りそうなのですが、リスク要因も無視できません。

一つは円高です。12月日銀短観によれば、2017年度下期の大企業製造業の想定為替レートは1米ドル=109.66円となっています。足元の為替が変動は激しく、時として108円台に落ち込んでいます。為替相場が想定レートよりも円高になれば、輸出型製造業を中心として、今後の業績悪化が想定されます。そうなれば、賃上げに慎重になる企業が続出するはずです。

もうひとつのリスク要因はトヨタの動向です。トヨタの賃上げ状況を横目で見つつ、他の自動車メーカーは賃金を決めますし、それを見て、電機、機械、鉄鋼など他の製造業が賃金を決め、さらにその動向を見て他の産業も賃上げを決める傾向があります。つまりトヨタの賃金が、日本企業全体の賃金動向を決めていると言っても過言ではありません。

もしトヨタの賃上げ率が渋いものになれば、日本企業全体の賃金上昇率も精彩を欠いたものになりえます。心配なのは、そのトヨタが、政府をも巻き込んだ賃上げ期待に対して距離を置いていることです。トヨタ首脳による「(賃金などのコストが上昇して)競争力が下がって倒産すれば意味がない」などと、賃上げに水を差すような発言も報道されています。

トヨタが渋い回答しか出さない場合、春闘全体の勢いも弱まり、賃金上昇率も昨年実績を下回り、コアCPI上昇率も昨年を下回り、デフレに回帰するーという最悪のシナリオも否定できません。

トヨタの株価の時価総額は25兆円程度。日本企業のトップ、最も価値のある企業です。その動向が一国のデフレ・インフレ状況にも影響を与える-。改めてトヨタの巨大さ、強さを思い知らざるを得ません。しかし、その巨大さ、強さゆえに社会的責任も大きなものになるーということをトヨタ首脳には考えて頂きたいと思います。トヨタの動向、注目です。