(生産統計は景気の動きが「見える」最強の経済指標)

11月鉱工業生産指数が発表されました。以前もご紹介したように生産統計は景気の方向感が最もはっきり「見える」指標です。この動きが下向きか・上向きかで、景気の方向感が分かります。下のグラフ(Cx参照)を見ても分かりますが、生産の山と谷が、景気の山谷とほぼ一致しています。グラフのラインが下向きの時が景気後退期、上向きの時が拡張期にあたります。「景気は現在どういう状況にあるのか?」を手っ取り早く知りたい人には非常に便利な統計で、日銀短観とともに日銀が最も注目する指標でもあります。グラフ内の矢印が示すように、生産は依然上昇基調を維持しています。

生産、出荷とも上昇基調

生産指数は前月比プラス0.6%と、2カ月連続の上昇となりましたが、上昇幅としては、Research76の予想(プラス0.8%)をやや下回りました。一方、在庫指数は同マイナス1.0%と、3カ月ぶりの低下となりました。その結果、生産と在庫の3カ月移動平均は、生産、在庫ともに上昇基調を維持しています(C1参照)。


経産省は12月、1月の生産指数がそれぞれ前月比プラス3.4%とマイナス4.5%になるとの予想も発表しました。Research76では、過去の経産省予測と実際の数値のギャップを勘案して、12月は前月比でプラス1.4%、1月は同マイナス5.0%程度と予想します。実際の数字がその予想通りになれば、10-12期の生産指数は103.9となり、7-9月比でプラス1.4%(C2参照)、7四半期連続の上昇となります。こうした動きを受けて、経済産業省では生産の判断を「持ち直している」に上方修正しました。この表現を使うのは1996年1月以来とのことです。

こうした生産の動きから、足元の景気拡大(2012年12月に始まった「アベノミクス景気」)も継続していると判断してよいでしょう。12月まで続けば61カ月連続となります。既に「いざなぎ景気」(57カ月:1965年11月—1970年7月)を超えて、戦後最長の「いざなみ景気」(73カ月:2002年2月—2008年2月)超えが徐々に視野に入ってきます。ただ心配な点も散見されます。

出荷在庫率、16カ月ぶりのマイナスに

生産の今後を占う意味で出荷在庫率を見てみましょう(出荷在庫率については下の説明をご覧下さい)。11月の出荷在庫率を算出するとマイナス0.4ポイントと、16カ月ぶりにマイナス圏入りとなりました(C3参照)。

出荷在庫率がマイナス領域にあるということは(下の説明によれば)生産活動は11月単月では「在庫積み上がり局面」(10月は「在庫積み増し局面」)に入ったことが分かります。この局面では想定以上に在庫が増えているので、適正な在庫水準を回復しようとして、メーカーが生産を減らします。つまり生産に低下圧力が生じやすい状況であり、景気拡大には逆風となります。まだ11月単月の数字ですので、何とも判断しずらいのですが、マイナス圏入りが長引けば生産下押し圧力が今後明確になる可能性があります。

ここで鉱工業生産の中でウェイトの大きい汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、輸送機械、化学(医薬品を除く)の4項目について見てみると、電子部品・デバイスの出荷在庫率が10月のプラス8ポイントから11月はマイナス6.2ポイントとマイナス圏入りしたことが注目されます。同部門は好調が伝えられていただけにやや意外感があります。

また自動車を含む輸送機械の出荷在庫率が10月のマイナス15.1ポイント(9月はマイナス1.4ポイント)からマイナス25.4ポイントと、マイナス幅を拡大させているのも気になります。単月の数字は振れが大きいので即断できませんが、自動車業界は鉄鋼や化学など他の産業への波及も大きいので要注意です。

このような在庫上昇圧力が継続すれば、アベノミクス景気の「いざなみ超え」は厳しくなってきます。来年1月の生産も大幅なマイナスが予想されており、今後とも生産動向を注視したいと思います。

出荷在庫率は:「<出荷の前年比変化率>マイナス<在庫の前年比変化率>」(出荷、在庫はともに原数値)で計算できます。11月の出荷は前年比プラス2.4%、在庫はプラス2.8%ですから、11月の出荷在庫率は、+2.4マイナス(+2.8)で−0.4となります。16カ月ぶりにゼロを下回りました。

在庫状況には4つの局面がありますが、出荷在庫率によって以下の判断が目安になります。
1.「予期せざる在庫積み上がり局面」:出荷在庫率がゼロからマイナス幅最大まで
2.「在庫調整局面」:出荷在庫率がマイナス幅最大からゼロまで
3.「予期せざる在庫減少局面」:出荷在庫率がゼロからプラス幅最大まで
4.「在庫積み増し局面」:出荷在庫率がプラス幅最大からゼロまで
1,2の局面では生産に下落圧力が、3,4の局面では上昇圧力が生じやすくなります。