—長く御無沙汰して失礼いたしました。目新しいネタが見つからず、また個人的な仕事で多忙にしているうちに一週間が経ってしまいました。その間も多くの方々がブログを訪れて頂いたようで、非常に感謝しております。今後とも宜しくお願いします。

数四半期のラグをもってCPI押し上げ

25日に内閣府から発表された4-6月期の需給ギャップ(GDPギャップ)はプラス0.8%となり、1-3月期のプラス0.1%から大きく改善、2四半期連続のプラス圏入りとなりました。プラス0.8%という数字も2014年1-3月期のプラス1.1%以来という大きなもの。これほど大きく改善したのは、4-6月期GDPが前期比年率プラス4.0%と、潜在成長率(内閣府によるとプラス1%)を大幅に上回ったためです。

 

消費者物価(コアCPI、生鮮食品を除く)は既に7月に前年比プラス0.5%まで上昇しており、最早デフレとは言いにくいかもしれませんが、コアCPIは需給ギャップに数四半期遅れて動く傾向がありますので、今後コアCPIのプラス幅はさらに拡大することが期待されます(C1参照)。尚、2014-15年のCPIは消費税引き上げの影響で一時的に上振れています。

コアCPIに影響を与える要素として、原油価格と為替の動きも見てみたいと思います。原油価格(WTI、ニューヨーク原油先物)の前年比変化率については、今年前半に一時的な変動がありましたが、総じて2015年半ばを底として、マイナス幅縮小、プラス幅拡大の動きが見られます(C2)。

また為替についても、2016年半ばを底として、ドル高/円安の方向に動いています(C3)。GDPギャップに加えて、こうした原油、為替などの市場要因もコアCPIの押し上げに寄与しています。

容易に払拭できない「デフレ根性」

以上のようなプラス要因はありますが、日銀が掲げるプラス2%の物価目標達成のタイミングは依然見通せません。黒田日銀総裁も指摘していますが、あまりに長くデフレを放置したために、企業や消費者の間に「デフレ根性」が染みついてしまったことが大きく影響しています。

企業は業績が改善しても「いつまた円高になって収益が悪化するか分からない」と言いつつ、容易に賃金を上げませんし、消費者も「しばらく待っていれば必ず価格は下がってくる」と信じて買い控えを続ける人が多い状況です。

こうしたデフレ根性の常態化を招いたのは、やはり、あまりに長く円高/ドル安が続いたことが原因でしょう。私が記者として日銀取材をしていたのは2009-10年あたりですが、その間に為替は1ドル=100円を割って、2010年10月には80円台まで円高が進みました。その時点では、円高に対する危機感が日銀内で強まっているようには見えませんでした。

当時、日銀幹部の何人かは「円高で日本企業の輸出収入は目減りするが、一方、輸入原材料も安く手に入るので、収益へのプラス・マイナスはバランスしている」と述べていました。一見もっともらしい説明ではあります。しかし実際には、そんなことを言っているうちに景気はどんどん悪化し、デフレが常態化していったわけです。

日銀など、大きな官僚組織というものは、自らの政策の間違いに気づいたとしても、メンツもありますし、容易にそれを転換できないようです。それを転換するには、やはり新総裁の就任が必要だったのでしょう。そうした意味でも、安易に前任者の政策を踏襲せず、独自の政策で思い切って勝負にでた黒田総裁の「胆力」には驚くばかりです。ちょっと話が横道にそれました。

GDPギャップの改善、7-9月期は鈍化か?

4-6月期の需給ギャップはプラス0.1%から0.8%に大きく改善、今後数四半期は物価押し上げに寄与すると期待されますが、やはり「プラス2%」目標の達成は容易ではなさそうです。

まず為替変動ですが、これは米国の金融政策の影響が大きいと思いますが、トランプ政権への信認、北朝鮮の動向次第で「有事の円高」が急浮上してくる可能性は無視できません。特に例年9-10月は円高になりやすい時期でもあります。

原油価格について気がかりは中国経済です。5年に一度の秋の共産党大会までは党の威信をかけてあらゆる規制を動員、景気や市場の変動を抑え込んでくるのでしょう。しかし大会が終わった後の動向は不透明です。現在、過剰債務、不動産バブルの問題が再び注目されだしていますが、世界第二位の中国経済に予期せぬ変動が有った場合、原油を含む資源価格への下押し圧力が生じることは容易に想像されます。

また需給ギャップですが、7-9月期は4-6月期ほどの改善は見込めないでしょう。潜在成長率がプラス1%という時に、4-6月期GDPの前期比年率プラス4%という数字は「でき過ぎ」でした。7-9月期は消費を中心として、その反動は避けられないと見ています。特に8月は低温、長雨が続き観光業を含めて夏物の消費には良くない環境です。9月1日に発表される百貨店各社の売上は、この夏の消費を占ううえで注目されそうです。