なぜか大地震後に円高

朝鮮半島有事の懸念が高まり「有事の円買い」ということで円高/米ドル安が進んだとのことです。読者の方々からも為替動向を心配する声が聴かれます。この有事の円買いについて以前のブログで「有事の円買いはいずれ終わるのではないか」との可能性を示しました。その後もずっと気になっているのですが、相変わらず色々な意見が錯綜して良く分かりません。ひとつの考え方として「レパトリ」の影響もありそうです。

レパトリ(repatriation)とは何か? 資金の本国送還というような意味合いです。かみ砕いて言えば、保険会社は集めた保険金を内外の株や債券といった金融資産に投資しています。いざ災害が起こって、保険金を契約者に払わなければならない時には、保有している資産を取り崩して、資金を確保する必要がでてきます。

例えば、日本で災害が起こり、日本の保険会社が保険金を払わなければならない事態に直面した場合、米国債などの海外資産をまず売ってドル資金をつくります。次にその資金をドルから円に転換する必要が生じますが、その時に円買い/ドル売りという作業があり、円高/ドル安圧力が出てきます。

例えば2011年3月に東日本大震災が起きたときには、3月は1ドル=82.84円(月末)でしたが、その後70円台へと円高が進み、翌年1月には76.3円を付けました。この時はレパトリの可能性が取りざたされました(財務省など通貨当局はそれを否定しましたが)。

また1995年1月に阪神淡路大震災が起きたときも、1月時点では1ドル=98.58円でしたが、5月には83.19円まで円高が進みました。さらに同年4月19日には79.75円と一時的ではありますが円は過去最高を記録しました。もっとも、この瞬間的円高については「橋本龍太郎は嫌なヤツ」でも触れましたが、日米自動車交渉の真只中だったこともあり、米国による嫌がらせだとの説もあったことを付け加えておきます。

こうした過去の為替動向とレパトリの可能性を考えてみると、実際に北朝鮮のミサイルで日本に被害がでた場合、保険会社は海外の資産を取り崩して円資金を確保する必要がでてきます。レパトリがおこって、円高/ドル安圧力が生じることは否定できません。日本人としては想像したくない事態ですが、もしかしたら市場関係者はそこまで考えて「有事の円高」姿勢を維持しているのかもしれません。

今後、世界需要に悪影響も

北朝鮮が「米領グアムに中長距離ミサイル攻撃を検討している」と伝えたとのことですが、具体的な地域名が入っていることが気になります。今回の北朝鮮の発表で、グアムを訪れる人が減ることが容易に予想されますが、今後も北朝鮮が、具体的な地域名を挙げれば、そこを訪れる人が減るのは避けらないでしょう。その場合、旅行・航空業界への打撃となる可能性もあります。2001年9月11日に米国同時多発テロが発生したときも、海外旅行需要が大幅に減じて、航空会社が打撃を受け、世界経済を足を引っ張りました。

尚、円とドルの関係に大きな影響を与える日米金利差ですが、10日時点で金利差は2.15ポイントとなり、5日時点の2.20ポイントから0.05ポイント縮小しています。それに呼応するように為替は1ドル=109.05円となり、110.69円から円高に進みました。週末ベースでみてみると110円を割るのは4月22日(109.09円)以来となります。「日米金利差縮小で円高」というセオリーは依然生きています(C1参照)。