財務相、経済産業相、経済財政担当相—と政府内に経済閣僚は少なくありません。経済と一言にいっても、為替から経済成長、貿易、企業育成など多くの分野があります。経済閣僚というと、経済問題に精通した人物が就くポストと考えがちですが、必ずしもそうでなく、一般の経済人よりも経済を知らない人が就くことも多々ありました。

私が外資系通信社記者として初めて担当することになった経済閣僚が、細川護熙内閣の経済企画庁長官の久保田真苗氏でした。1993年のことです。細川内閣は、長く続いた自民党内閣を打倒して、日本新党、日本社会党、新生党、公明党など8会派が連立してできた政府でした。あまりに多くの会派が反自民という一点だけで連立したので、その運営は混乱が目立ちました。

その一例が閣僚人事でしょう。私が担当することになった久保田長官は、社会党出身の女性で、誠実な人柄でしたが、専門が経済ではなかったこともあり、記者との質疑応答もしっくりしないものがありました。

ひとつ忘れられないのが、ある日系(外資系ではない)通信社のベテラン記者の久保田氏への質問です。久保田長官の回答が要領を得なかったこともあって、その記者は「つまり長官は、景気が悪くなったから、金利が上昇したと言いたいのですか?」と質問したのです(20年以上前の記憶なのであいまいですが、金利と景気の関係についての質問だったと記憶しています)。

この質問は、ある程度経済に通じている方ならば、簡単に「違う」と答えられる話です。景気が悪くなれば、カネへの需要が減じますので、金利は低下します。一方、金利が低下すれば、採算のとれるビジネスが増えますので景気は良くなる—というのが一般的な回答でしょう。経済の「いろは」です。ベテラン記者の質問は典型的な引っ掛け質問でした。しかし長官はこの質問に即答できませんでした。

記者という稼業は今も昔も意地が悪く(私も含めてですが)閣僚の失言を引き出すことを無上の喜びとする面があります。おそらく、ベテラン記者も、経済・景気を知らない閣僚に一泡吹かせてやろうと思ったかもしれませんし「経済に無知なものを重要閣僚に据えるのは問題だ」というような記事を書こうと狙っていたかもしれません。

この質疑応答の帰結はよく覚えていないのですが、周りにいた長官付けの官僚が適切に対応して、長官の無知が一般大衆にまでさらけ出されるというような事態には至りませんでした。

細川内閣は8会派の寄せ集めです。閣僚人事も、各会派の力のバランスを反映し、自民党政権を打倒した論功行賞的な面もあったと思います。必ずしも経済に精通した人が経済閣僚になることはない—という言い分も分かります。しかし、あまりに経済に無知な人を経済閣僚に選ぶという姿勢は、本人にも気の毒ですし、あまりに国民不在ではないか、これで良いのか—という感を持たずにはおれませんでした。これは何も細川内閣に限ったことではありません。麻生太郎財務相ですら2001年に経企庁長官に就任した時には、マクロ経済に関する理解に「?」を持ったことも付け加えておきたいと思います。

経企庁長官(今の経済財政担当相)は、かつては池田勇人、佐藤栄作、福田赳夫、宮澤喜一など、後年に総理に就くような人が歴任する花形ポストでした。しかし私が記者として担当した時には、かつての重みは失われていました。これは、経企庁が毎年発表する経済白書や経済見通しの重要性が時代の推移とともに薄れたということも関係しているのでしょう。

最近は、TPP担当ということもあり、かつての経企庁長官に相当する経済財政担当相の地位も徐々に持ち直しているようです。国民の為にも、記者の侮りを誘発することのないよう、大臣も勉強して頂きたいと思います。久保田真苗氏は2008年に、また件のベテラン記者も既に他界しています。当時駆け出し記者だった私の質問にも誠実に答えて頂いたこと、先輩記者として色々とご指導頂いたこと、感謝しております。合掌